連載:「頭のよい人はいつ勉強が好きになったのか」第5回

今回は、エグゼクティブコーチングを
提供する企業の執行役員の日田さん
(コロンビア大学バイオエンジニアリング学部を経て、
東京大学法学部を卒業)に取材しました。

日田真澄さん

日田さんの会社は、
企業向けにコーチング・プログラムの提供を行っています。
コーチングとは、
対話によって相手の目標達成を図る能力開発手法の一つ。
相手の話を聴き、感じたことを伝え、
質問することで自発的な行動を促していきます。

有名企業のトップ達は積極的にコーチングを受けており、
私自身も何度かコーチングを受けたことがありますが、
その能力開発手法にとても感銘を受けました。
日田さんはとても明るい性格で、社交性があり、
他人への思いやりや心配りができる方です。
また、物事を客観的にとらえながら思考できる才女でもあります。
今回は、様々な角度から日田さんの頭の中を
のぞいてみようと思います。

(荘司)
日田さんは、いつぐらいから
自主的に勉強するようになったのでしょうか?

(日田)
誰でもそうだと思いますが、
子どもの頃は特にやりたくないことについては、
とことんやれない性格でした。

とは言え、計算ドリルや漢字ドリル
といった宿題をやらないでいると、徐々に分が悪くなるので、
やられねばならない。
そういう時は「いかに楽しくできるか」を考えます。
今の仕事でもそうですが、
やらねばならないタスク(作業)があった時は
ゲームの一つだと思って対応しています。

(荘司)
ゲームとして対応するというのはどういうこと?

(日田)
今、しなければならないタスク(勉強を含む)
をいかに効率よく、いかに楽しくこなせるか
というゲームを、自分に仕掛けるイメージです。
ニンジンをぶらさげたり、
あえて与えられた時間の半分にしたり、
近所の年上のお兄さん、
お姉さんを巻き込んでチームにしたり。
与えられたタスクであろうと、
自分で自分に課したタスクであろうと、
すべてゲームだと考え、そのゲームを楽しみながらこなしています。
なので「嫌だなぁ」と思いながら勉強した記憶はありません。

(荘司)
脳科学者の茂木健一郎さんも頭のいい人というのは、
「計算ドリルをやるとか、
プリントを解く場合もゲーム感覚で対応している」
と言っています。
例えば60分の制限時間があった場合、
30分で解いてみようといった具合です。
その目標を達成できるかどうかを楽しんでいるというのです。
脳科学的には、
その時に脳内にドーパミンという物質が分泌される。
すると、問題を解くという思考回路がグンと強化され、
解くという行為が好きになる。

(日田)
はい、そうですね。
その感覚にとても近いと思います。
どのようなゲームにするか
考えることも楽しんでいたように思います。

「ご褒美大作戦」を仕掛けることが多かったですね。
勉強を終わらせたその先に
大好物のハンバーグを夕飯で食べられるとか、
遊びにいけるとか、
私にとってたまらないニンジンが目の前にあると仮想して、
宿題をいかに早く終わらせられるかというゲームだと
設定したりしました。

ゲームを攻略するために、私の頭の中では、
このドリルを作った人はなんでこの順番にしたのだろうか、
なぜ、この順番に解かそうとしているのか、
試しに真ん中からやってみようとか、
最後の問題から解いてみようといった具合に、
「なんで?」と質問とチャレンジで一杯だった気がします。

単なる負けず嫌いだったのかもしれないですが、
設定したゲームが攻略できないとたまらなく悔しいので、
最後まで完了させていた気がします。
まあ・・・ゲームへの気力が湧かない日は、
天井裏に宿題のプリントを押し込んで
「無かったこと」にしたりもしてましたけど(笑)。

(荘司)
( ゚ ▽ ゚ ;)
いつぐらいからそのように考え始めたのですか?

(日田)
幼稚園の頃からだと思います。
私の幼稚園は、ひたすら広大な裏山で遊ばせるだけの幼稚園で、
とにかく一日中外に出て皆で一緒にゲームをしていました。
雨でも外で陣取りゲームとか缶蹴りとかして遊んでいました。
遊具があまりなかったので、
みんなで遊びを創ることもありましたね。

よく覚えているのは、
幼稚園のイベントでお芋ほりに行った時も、
どうやったら、みんなと一緒にたくさんの
お芋をとれるかを考えました。
こっちで取ってみたら3個しかついてなかった、
あちらで取ってみたら、もっとたくさんついていた。
仮説をたててみんなにも伝えて、試してみて、
できる限りたくさんの芋を掘り出すことを全力で考えていました。

(荘司)
幼稚園の頃の私は、
お芋ほりというイベント自体が新鮮で、
生産性の効率化のことまで考える余裕は全くありませんでした。
日田さんの話を聞いて、別世界の話のように思ってしまいます。

やらなければならないタスクをゲーム化して
楽しもうとする発想を持てることが素晴らしい。
ただ、子どもだったらできればタスクを避け、
ご褒美だけを得ようとするのではないでしょうか。

ちなみに、私自身はそのタイプです。
宿題をほったらかして遊びにでかけてしまう。
日田さんが宿題などのタスクをこなしてから
ご褒美を得えようと考える義務感のようなものは、
いつ身についたのですが。
その理由やキッカケを教えていただけないでしょうか。

(日田)
おそらく母親の教育方針の影響ですね。
小学校1年生か2年生の頃、母親から
「アナタが将来、社会に出たら社会はアナタを
結果でしか評価しないけれども、この家の中では、
アナタがどんな風にどれだけ頑張ったか、
どれだけ真剣に向き合ったかで評価するわね」
と言われたのです。

実際に母親は、私がどんなにテストで悪い点数を取ってきても、
さぼったり、手を抜いたりせずに
真剣にとりくんだ上での結果であれば
叱ることはありませんでした。
テストで0点を取ってきた場合も
真剣に取り組んだ上での結果であれば、
「がんばっているわね」と褒めてくれます。

私が結果よりも何かに向き合うプロセスを重視することついて
母はとても喜んでくれました。
「その方法は面白いね」
「面白い遊び考えたね」
と嬉しそうに声をかけてくれたのです。

(荘司)
結果よりもプロセス重視という
教育スタイルに強く心を打たれました。
お母様は教育の仕事に携わっているのですか?

(日田)
デザイナーです。
洋服のパタンナーを中心に、
ジュエリーなどもデザインしています。
答えのない世界の中で生きてきた女性なので、
楽しいと思うこと、自分自身のインスピレーションや
違和感といったものをとても大切にしていました。

「あなたがどうしたいの?」「あなたはどう考えるの?」
と小学生の時からよく聞かれました。
「みんなやってる」というようなことを言うと、
「あなたはあなたでしょ」「うちはうち」
とも言われました。

* * *

日田さんのお母様の子どもとの向き合い方に
とても興味が湧いてきました。
次回は、日田さんの人間形成に多大な影響を与えたお母様の
深い〜話をお伝えします。
ご期待ください。

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