連載「頭のよい人はいつ勉強が好きになったのか」第3回

今回は、現役大学生の赤城君にインタビューしました。

赤城君は、現在、日本大学理工学部建築学科の1年生です。
私が経営している設計事務所に最近、
手伝いに来るようになりました。

赤城君以外にも他大学も含め、
複数の建築学生達が手伝いにきてくれていますが、
まだ、1年生なのに、これほどしっかりしている学生は珍しいです。
仕事も丁寧で、何よりコミュニケーション能力が高い。

コミュニケーション能力。

最近の学生達に最も欠落している能力です。
学生だけでなく、社会人にも欠落している方が増えています。
これは企業側にとって悩みの種であって、
将来的な我が国の成長を考える上で、最大障壁の一つでもあります。
赤城君に良質なコミュニケーション能力が芽生えたキッカケは、
高校生時代の留学体験にあったことを知りました。

そこで、赤城君に留学体験についてインタビューしました。

赤城侑真さん

(荘司)
留学体験について教えてください。

(赤城)
高校1年生の3学期から2年生の3学期までの1年間、
ニュージーランドにある姉妹校に留学していました。
僕は、都内にある実践学園高校の卒業生ですが、
高校に留学生制度が用意されていたのです。
高校時代に留学したことによって、
人生観を大きく変えることができました。

(荘司)
留学を意識しはじめたのはいつぐらいですか。

(赤城)
留学を意識したのは、中学生時代に通っていた学習塾の
先生の話がキッカケでしたが、
それで強く留学を希望していたわけではありません。
なんとなく頭の片隅に残しておいた程度でした。
高校1年生の時に留学制度があることを知り、
段々と今しかできないことのひとつのように思えてきて、
思い切って申し込みました。
倍率も高くて、希望者の中から男女1名ずつが選抜されるものでした。
ただ、両親、特に父親からは激しく反対されました。
大学受験の影響を心配されたのです。
最終的には、大学受験のための学力は落とさずに帰国することを
条件に留学を許可してもらえました。

(荘司)
留学生活はどうでしたか。

(赤城)
ニュージーランドで正解だったと思います。
というのも周りに日本人がいなかったので、
頼れる相手がなく自然と自立性が芽生えたからです。
生活習慣なども異なり、ひとつ判断を間違えれば、
危機的な状況に陥ってしまう緊張感もありました。
留学の目的は、実践的な英会話力をマスターすることだった
のですが、本気で語学力を身に着けないと
現地での生活にも支障をきたします。
切羽詰っていたのです。
そこで、滞在先のお母さんにお願いして、
絵本の読み上げに協力していただきました。
僕が絵本を読み上げて、発音など、
おかしな点を指摘してもらうのです。
この訓練は非常に効果的でしたし、様々な気づきがありました。

(荘司)
例えばどんな?

(赤城)
英語の発音というのは頭ではなく、
口まわりの筋肉で覚えていくということです。
この感覚は、日本で英語を勉強し続けていても
身につけられなかったと思います。
それと、英語をマスターするには、学習環境が大切
ということも実感しました。
文法的には中学校で学ぶ程度の英語レベルで十分なんです。
あとは、常に英語に接する環境に身を置くことで
どんどん英会話能力は上達していきます。
知識や理論というよりは、継続的に英語に触れる環境に身を置き、
英語的視点や観点で物事を考えられるようになることが
英会話能力を上達させる最大のコツだと分かりました。

(荘司)
そうなんですか!
その上達法は、やはり現地に留学しないとできない話でしょうか?

(赤城)
そうは思いません。
英会話能力を上達させる環境づくりは、
日本にいながらも十分にできます。
ただし、それは、語学力の上達法に過ぎません。
それよりも、価値観の多様性や、日本的思想、
英語的思想・発想を切り替えることで
答えが変わってくるという事実を体感することに
留学の醍醐味があるように思うのです。
後輩たちにも高校時代での留学を薦めています。
特に、建築学科といったような理系を目指している
高校生たちにこそ、留学を体験して欲しいです。
実際、理系の帰国子女というのは、非常に少ない。
私の高校でも理系志望者で留学を実行したのは、
私がはじめてでした。
理由は、理系の場合、留学することよって
大学受験に不利になるからです。
文系であれば、英語力だけで合格できてしまう大学も多いのですが、
理系の場合は、語学よりも数学や物理などの
学力が重視されてしまいますので。

(荘司)
なぜ、理系を目指す高校生たちに留学を薦めたいのですか?

(赤城)
例えば、建築のあり方が海外では大きく違います。
実際、ニュージーランドの建築は、質の悪い建物が多く、
先の震災でも甚大な被害をもたらしました。
日本のように建築の質が高ければ、
被害を抑えることができたのです。
施工現場の様子を眺めても、日本の建築現場は
丁寧に管理されていて、働いている職人の皆さん達も真剣です。
図面も緻密に表現されています。
エンジニアを目指す私たち若い世代が、
自国の技術力の高さに誇りを持てるようになれば、より一層、
日本の建築力は活性化していきます。
にも関わらず、日本は若者たちの技術者離れが加速しています。
将来的な国力を考える上で、とてももったいなく思うのです。
技術的側面以外にも他国の文化に触れることで、
自国の文化の良い面と悪い面が鮮明に見えるようになりました。
それによって、文化に対する興味や関心も
大きく高まったように思います。

(荘司)
全くその通りですね。
私は大学卒業後にはじめて海外の建築を見て回ったのですが、
もっと早く海外に飛び出せばよかったと後悔しました。
日本から離れることによって、この世界の美しさや面白さ、
奥の深さを知り、感動することの大切さや勉強への意欲、
何より生きることの尊さを実感できたからです。

(赤城)
僕もそのように思いました。
今、大学で建築を学んでいてとても面白いですし、
荘司さんの事務所で設計実務に関わらせて頂けていることも
ありがたく思います。
どんどん、いろんな事を吸収させて頂きたいです。

(荘司)
この記事は、これから留学を考えている高校生や中学生、
また、そのご両親も読んでいただいています。
高校留学について注意すべき点があれば教えてください。

(赤城)
本人の性格にもよりますが、
日本人が多い所は避けた方がよいと思います。
理由は、日本人どうしでつるんでしまうからです。
貴重な留学生活を遊びに費やしてしまうのです。
もちろん、人にもよると思いますが。また、今は
SNS等が発達していますので、引きこもってしまい
ツイッターなどを利用して、日本人の友達や家族とだけ
コミュニケーションを図ってしまうケースもあります。
特に、中学生の留学は気をつけた方がいいと思います。
まだ、人間形成が未熟なので、
ホームシックにかかってしまうのです。
その場合、ますます引きこもってしまう傾向にあります。
あとは留学する期間ですが、最低でも3~4か月は欲しいです。
それだけあれば、語学力を高められますので。
私の高校でも短期留学制度がありました。
その場合、2週間程度しか滞在しません。
僕が留学中、後輩がニュージーランドに短期留学してきました。
その時「できれば3~4か月、滞在してくれれば、
語学力を伸ばせるのに。」と話しました。
帰国後、その話を後輩たちが校長先生に伝えたところ、
3~4か月の中期留学制度を高校側が設けてくれました。
あの時はとても嬉しかったです。

(荘司)
今日はありがとう。
私には娘がいますので高校留学させてみたくなりました。
ただ、私には留学経験がないので娘を留学させるのは正直、
不安です。だから、今日の赤城君の話は、
脚色されてない生(ナマ)の話なので大変参考になりました。
同じように赤城君の留学体験についての話を
本人から直接聞きたいと思う高校生や両親は多いと思います。
一度、自由に赤城君とフリートークできる機会を
設けさせて頂けませんか?

(赤城)
喜んで協力します。
理系志望の高校留学生が増えてくれると嬉しいです。

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