“白塗りの大道芸”
そんな従来のパントマイムの概念を破り、
人々に感動を与えるカンジヤマ・マイム氏。

今回同氏にインタビューを依頼するきっかけとなったのは、
一冊の本でした。
その本を切り口に、英語観、教育観、自身のこと・・・。
溢れ出る情熱の波と共に、沢山のことを語っていただきました。

カンジヤマ・マイム(カンジヤマA:藤倉健雄さん)

カンジヤマ・マイム(カンジヤマA:藤倉健雄さん)
大学時代、大学へ行く意味がわからなくなっていた時、
友人に誘われたマルセル・マルソーのショーを見て感動。
その後大学を辞め、ニューヨーク州立大学へ編入。
同上大学演劇学部修士課程を経て、
ウィスコンシン大学演劇学部博士課程修了。
Ph.D(教育演劇学博士)
NHK テレビ『おかあさんといっしょ』の
「パント!」の監修も手がける。
全国を回り、若者の感動の種に水を与え続ける。
公式ホームページ:http://www.kanjiyama.com/

■テクニックの背景にあるもの

この本を見つけてきてくれたんですね。

カンジヤマ・マイム(カンジヤマA:藤倉健雄さん)

- やはりインパクトがありました。

狙ったからね。(笑)
英語の本って真面目な本が多いと思うんです。
だからもっとふざけちゃえと思ってこの写真を選びました。

この本は、マイムを色んなものに応用しようという
試みの一環で出した本です。
でも、飽くまでこの本はテクニックの羅列なんですよ。
テクニックはテクニックで効果はあると思うのですが、
もっともっと背景にあるのは『憧れ』なんです。

英語を使って、
みんな同じことをやっているわけではないじゃないですか。
英語を使って人のためになっていることをやっている人もいるし、
悪いことをやる奴もいるし。
要するにそれって、人間の生き方の問題ですよね。
だから、英語を使って
「こんなことがやってみたい!」っていう
夢を持てるようにしてあげることが、大切だと思うんです。

カンジヤマ・マイム(カンジヤマA:藤倉健雄さん)

■小手先のことは二の次

テクニックや小手先のことを教えるのが、今の日本の教育。
イギリスかどこかの諺に、
子どもに航海術を教えたければ、
細かい方位の読み方や計算方法なんかの
小手先のことを教えるんじゃなくて、
ただ海の素晴らしさ・魅力を
教えてあげればいいというものがあります。

そうすれば、子どもは自らそこに漕ぎだしたくなる。
その漕ぎ出したいという情熱や動機が起これば、
それからどうしたらいいのか、
動機づけがあれば自ら進んでいって、
喜んでやるわけです。
それが教育の原点じゃないかと思っています。

■感動できる力に、感動。

大学時代は何か書けば単位をくれる、という授業ばかり。
何のために親にお金を払ってもらって学校に行ってるか、
わからなくなったんです。
そんな時に、たまたま友人に誘われた
マルセル・マルソーの舞台を見に行ったんです。

その舞台を見て、ぶっ飛びましたね。
何だこれはと思いました。
1人の男が2時間1人で黙々と動いていて。

そして、演技もそうなんですけど、それ以上に感動したのは、
こんなしらけた自分に、
まだこんなに感動できる力があるんだということです。
自分の心の「感動の種」に水を与えてくれたのが、
パントマイムだったんです。

やりたいと思った。

そこからは授業出るのをやめて、
とにかくマイムのことについて調べました。
親には悪いけれども、もう1回勉強しなおしたいからといって、
退学届を提出しました。ものすごい敗北感でした。
入学金から何から全てパーになってしまったのですから。

親に英語をやりたいからと言って
行きたかった高校・大学に行かせてもらったのに。

しかしそれから1年間働いて、
ニューヨークの州立大学に編入して自分のお金で卒業しました。
修士から博士になる時には、
マイムができるからという理由で奨学金をもらっていました。

カンジヤマ・マイム(カンジヤマA:藤倉健雄さん)

■挫折、挫折の人生

博士課程を取ったのは40代の時なんです。
博士課程を取ろうと決意したのは、
20年間一緒に居たパートナーと離婚したことがきっかけでした。
2001年まで僕は『笑点』にも出て、
『遠くへ行きたい』なんかにも出させてもらっていて、
ばんばんテレビに出ていたんですよ。

パントマイムでも私生活でも、パートナーだったんです。
でもパートナーと離婚して、
それまではテレビにも一緒に出てたし
これからどうしようかなって思って、
何も出来なかった時期もありました。

でももう1回原点に戻ってやってみようと思って、
アメリカに渡り、博士課程を取りました。
今のパートナーとも、その時に出会ったんです。

ヒーローじゃないし、大スターでもない。挫折挫折の人生。
でもこうして楽しく、好きなことやって生きてる。
憧れを信じて生きてる。
そういう大人が居てもいいと思うんですよね。
そういう姿を、ショーを通じて
子どもたちに見せていけたら良いなと思っています。

カンジヤマ・マイム(カンジヤマA:藤倉健雄さん)

■憧れの持つ力

僕はいくつかの大学で授業を持っているんだけど、
学生って、単位をとるときに、これやりたい!って言って
その授業をとるのではなく、卒業のために、
卒業には何単位必要だから、どれだけ単位が取りやすいか
ということを考慮して取ると思うんですよ。
そういう意味で、今の若者はちょっと打算的ですよね。

スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学での
スピーチの言葉で「これだよ!」って共感した部分があります。
ジョブズは大学を中退していますよね。
中退した時に何をやったかというと、
どうしても取りたい授業があった。

それがカリグラフィーという授業だった。
文字を美しく見せるための手法を学ぶ学問です。
彼は単位を取りたいからではなく、
「これがやりたいから!」
といってその授業に潜り込んで、ずっとその授業を受けていた。
そのカリグラフィーの授業がなければ、アップルはなかった。
アップルはあのフォントの美しさがあって、
アップルとして成立したわけじゃないですか。

彼がその時点でやったことは、卒業のためじゃない。
単位を取るという大義のためじゃなくて、
自分がやりたいと思ったことをやった。
そのやりたいことはその時点では何の意味も成さなかった。
ただの「点」に過ぎなかったんです。

しかし、ジョブズはその「点」が「未来」に繋がると信じ続け、
実際にアップル設立時にその点があらゆる点と繋がった。
憧れや、やりたい!という気持ちが意味を持ったんです。

何度も言うように、人を動かす根底にあるのは
「憧れ」だと思っています。
若い頃の憧れって、凄いじゃないですか。
その憧れをどこまで持ち続けて、
追求するかっていうことが大切じゃないかなって思います。

だから子どもたちにもその憧れを見つけてほしいです。
でも、子どもたちが憧れを持つには、
まずは大人が楽しく生きて見せる必要があると思います。

■これから必要になってくる力

一歩日本を出ると、
色んな生き方をしている人って沢山います。
対して、日本はあまりにも画一的な社会だと思います。

この画一化された社会で、この常識の中で生きていては、
どんなことがあってもこの日本で生きていくしかないって
なっちゃうじゃないですか。

そういう時に、自分の子どもには独り立ちして、
いつでも越境できる力を持ってほしいと思います。
そのためには英語がなくちゃいけないんですよ。

2年前の3月11日。
東日本大震災の時も、英語ができて、
かつネットリテラシーがある人とない人との差は歴然だったんです。
あの時アメリカ大使館とフランス大使館は、
福島原発が爆発した直後に80キロ圏外に退避するように、
自分の国民たちにネット上で発信していました。

一方、日本では、もし同様に伝えたら、
東京なんかもみんな逃げようとして、
新幹線も高速も大パニックになる。
そうならないようになのか、
むしろ「大丈夫です」という報道をしていた。

僕は1回めの爆発の時に、
友人から「もう本当にやばいよ」ということを言われて、
子どもと妻を、妻の実家である神戸に逃がしたんです。
それから、親も逃がさないといけないと思って、
千葉県にいる両親に電話をしました。

「人生で一番真面目な話をするから聴いてくれ。
これ以上福島原発が爆発したら、
首都圏からの脱出が不可能になってしまうかもしれない、
パニックが起きるから。今なら車で出られるから、一緒に出よう。」

そう言いました。

そうしたら、普段は絶対動かない父が
「わかった、そこまで言うんだったら信じるから」
と言ってくれて、車で父と母と大阪に逃げたんです。
そうすると、関西のホテルから旅館から
ウィークリーマンションまで
全部フランス人とアメリカ人でいっぱいでした。
のんびり関東にかまえていたのは日本人だけ。

だからそういう時に、ネットリテラシーと
情報をキャッチできる力、そして英語を話せる力がないと
生きていけないということを、
僕が授業を行っている大学の学生にまず最初に言うんです。

あとは英語を使って自分の大好きな楽しいことをやれって!!

カンジヤマ・マイム(カンジヤマA:藤倉健雄さん)

 

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