へそを曲げた女の子

教育実習の後半は「失地回復」のための戦いでした。
聾学校の生徒の特性を理解せずに、
思い上がった授業をした失敗を取り返し、
何とかして「子ども達にとって良き学びの機会になる授業」
を残したいと奮闘しました。
しかし、現実はそう簡単ではありませんでした。

授業内容はヨーロッパの地理。
「ロンドンは札幌よりも北のあるのに暖かいのは何故か」
という問題提起から始まり
「偏西風の影響と西岸海洋性気候の特徴」に至る流れです。

プリントを使いながらでは無く、
黒板に集中させるような展開にしました。
黒板に貼った世界地図を示し、
北半球の場合は一般的には北の方が寒いという知識を確認し、
世界の海流の図を示して「暖流と寒流がある」ことを確認し、
その上で、イギリスの周辺に暖流が流れていることを
ビジュアルで確認し、最後に、
暖流の上にマグネットで「偏西風」の形のシートを
貼りつけるという作業を構想しました。

しかし、一番利発で積極的に発言してくれるM子さんが
あまり関心を寄せてくれず、
逆にS君が「偏西風」の貼りつけを面白がり
「遊びモード」に入るなど、反省の多いものでした。

実習日誌の中の指導教諭のコメントを読むと原因がわかります。
最初にM子さんが、地図中の海流の矢印を
「暖流と寒流」と答えた際「褒めなかったこと」が問題でした。
さらにヘソを曲げたM子さんを気にし過ぎているうちに、
反対側に座るS君への視線が少なくなり、
今度はS君がヘソを曲げたのが原因でした。
さらに、コメント欄には「力み過ぎ、自然体で!」
などと書かれています。

「良い授業」を目指して力が入りすぎる一方、
準備した「展開」通りに進めることで精一杯で、
生徒の反応がよく見えていなかったのだと思います。

現在、授業で必要なことを話しながらも
頭の中では残り時間を計算したり、
生徒の反応を見て話す内容を切り替えたりする複数の処理を
当たり前のように行っていますが、
当時はひとつのことで頭がいっぱいになっていたのでしょう。

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