思い通りに行かない授業はさらに続きました。
EC(ヨーロッパ共同体(*1))について説明する授業で、
「国の枠を越えて結合した」というイメージを作るために、
加盟国各国のカードを黒板に貼りつけ、
場所を確認しながらヨーロッパ全体を形づくり、
最後に「EC」と書いた「加盟国全体のカード」を
その上に重ねるという作業を考えました。
ところが、生徒にとっては、
各国のカードを並べる作業自体がとても難しく、
やっと完成した後にECのカードを重ねても
「何を伝えようとしているのか」
ほとんど理解できずに終わったという印象でした。
イギリスの貿易を説明する授業で、
黒板に輸入品と輸出品の絵を貼り、
「外国から入ってくる」「外国へ出て行く」
などのイメージを絵の「動き」で示そうとしたものの、
なかなか理解は得られませんでした。
授業終了後、今ひとつ食いつきが悪いと
がっかりしている私のところへ、
Y子さんが近づいてきて、
こっそりとささやきました。
「先生、ぼーえきって何ですか~?」
「何と!話題そのものを理解していなかったのか・・・。」
とのけぞりそうになりました。
聾学校の生徒は、知的障害が無くても、
中学2年生なら中学1年生の教科書、
というように1学年下の教科書を使っていました。
獲得言語が少ないので、同学年の健常者よりも
学習内容を理解するのが大変なのだそうです。
考えてみれば、自然に耳に入ってくる言葉が
圧倒的に少ない彼らは、健常者が
「日常生活の中でいつのまにか
わかってしまったこと」
を理解していないことが多いのです。
自分だって「貿易とは何か」と
あらためて学校で教わったというよりも、
ニュースや本を通じて自然に覚えたように思います。
またひとつ、
やってしまった・・・、何もわかっていなかった・・・、
というショックとの遭遇です。
このように、
聾学校の実習では自分の中の常識や自信が
次々と打ち砕かれました。
今振り返れば良い経験でしたが、
当時はどんどん追い詰められていく感じでした。
(*1)1993年、ECからEU(ヨーロッパ連合)に発展しますが、
私の教育実習時はまだECでした。
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