苗木を持つ女の子

国有林を管理する仕事(*1)をしていた父親は、
「ものごとの道理」を、森・山・木などに関連させて
教えてくれたものです。

子どもの頃に聞いた話で強く心に残っているのは
「後人のために木を植える」という話です。
国有林の場合、杉の木を植えてから伐採するまで
70年くらいかかるそうです。(*2)

そうなると、自分が植えた木の恩恵を受けることはまずありません。
大寺社など古い建造物の改築のための木材になると
数百年先のことを考えて植えるそうです。

なぜそれでも植えるのでしょうか。

それは自分達も
先人が植えた木の恩恵を受けて生活しているからです。

中国に「先人木を植え、後人その下で憩う」という格言があります。
「生きていく時に活用することになる先人の遺産に
感謝の気持ちを抱き、同じものを後世に残すことでその返礼とする」
という意味です。
林を管理する仕事に従事する方は、このことを当たり前のように
実践していることになりますよね。

教育にも同様のことが言えるのでは無いでしょうか。

我々は先人が努力して積み上げた文明の遺産の恩恵を受けて
生活しています。
そして、教育を通じて、様々な知識・技術・規範・価値などを
教わり、それを土台として新しい発見・発明を
文明遺産に追加してきたのです。

そうやって先人の遺産そのものと、教育という「伝達」行為の
恩恵を受けて生活しているのですから、
それを後人に伝えるというのは、
「当たり前」のごとくなされるべきでは無いでしょうか。

自分もそうでしたが、子どもの頃は
「勉強って私の人生に何の役に立つの?」と考えがちですが、
「私の人生」では無く「人類の歴史」という俯瞰的視点に立てば、
「当たり前」とも言えるのです。

(*1)
林野庁の管轄下に営林局・営林署という組織があります。

(*2)
標高の高い所にある国有林の場合は育ちが遅いので70年、
民有林の場合は50年くらいで伐採するそうです。

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